アジャイル人材育成の為のタレントマネージメントの在り方(前編)

「アジャイルソフトウェア開発宣言」から20年が経ち、DXのトレンドに合わせてここ数年で日本でもアジャイルに取り組む企業が増えてきていますが、いまだ日本におけるソフトウェア開発の主流はウォーターフォールであり、アジャイルが一般に普及したとは言えない状況にあります。

日本でアジャイルがなかなか普及しない理由はいくつか考えられますが、最も大きな理由のひとつに、アジャイル人材の不足があげられます。

アジャイル成功のカギ(=DX成功のカギと言っても良い)はアジャイル人材をどう育成するかにあるといっても過言ではないが、残念ながら現在の日本ではアジャイル人材育成の重要性を理解している経営者は少ないです。

本稿では、アジャイル人材(主にエンジニア)に求められるコンピテンシーについて考察します。

1.アジャイルエンジニアに求められるコンピテンシーとは

ウォーターフォール開発では、プロジェクトのタスクは事前に詳細に定義され、それぞれ細分化された役割を持つプロジェクトメンバーに割り当てられます。

ウォーターフォールプロジェクトにおける役割の例:
・ビジネスアナリスト
・アーキテクト
・UIデザイナー
・プログラマー(クライアントサイド)
・プログラマー(サーバサイド)
・データベース管理者
・テスター 等

そのため、各プロジェクトメンバーは自分の役割を果たすために必要な限られた範囲のスキルを保有すれば良く、比較的短期間での育成が可能であり、外部からの調達も比較的容易です。

また、メンバー個々人のタスクと期限が明確になっているため、割り当てられたタスクを期限どおりに完了することが各メンバーの最大のミッションであり、そこには生産性や品質を上げるための工夫を考えるといった余地はほとんど存在しません(生産性や品質の向上を考えるのは専らプロジェクトマネージャの役割です)。

翻って、アジャイル開発の場合はどうでしょうか?

例えばアジャイルの代表的なフレームワークであるSCRUMで定義されている役割はプロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの3つだけです。そしてスプリントバックログを誰がどのように完了させるかの判断はチームの裁量に任されています。そのためチームメンバーには一人で複数の役割がこなせる幅広いスキルと、自律的なチーム運営を可能とする高度な自主性が求められます。

ただでさえIT人材不足が深刻な日本でこのようなアジャイルエンジニアを採用、あるいは外部から調達することは極めて困難であり、それが日本でアジャイルが普及しない大きな要因となっているものと推察されます。

2.アジャイルエンジニア育成のポイント

こうした中、アジャイルに対応可能なエンジニアをプロジェクト毎に都度外部ベンダーから調達するのではなく、社内で育成し内製化を進める機運が高まっていますが、これまでエンジニアの供給を外部ベンダーに大きく依存してきたユーザー企業にとって幅広いスキルが求められるアジャイル人材の育成は容易ではありません。

以下、アジャイルエンジニア育成のポイントについて考察します。

・スキルのDB化・可視化・共有
前述のとおりアジャイルエンジニアは多能工であることが求められますが、現実には、ビジネスを理解し、さらにプロジェクトに必要な幅広い技術スキルを全て保有するようなスーパーエンジニアは存在しません。したがってチーム組成にあたっては、各エンジニアの保有スキルとそのスキルレベルを把握し、全体としてプロジェクトに必要なスキルがカバーできるようチームを組成する必要があります。エンジニアはプロジェクトを通じて、既存スキルのレベルアップと新たなスキルを獲得しアジャイルエンジニアとしてのスキルの幅を広げていくことができます。このようなサイクルを効果的に回してくためには、各エンジニアが現在保有するスキルとそのレベル及び、当該エンジニアが今後習得していくことが望まれるスキルをデータベース化・可視化し、マネージャ・本人・チームメンバー間でオープンに共有できる仕組みが必須となります。

・評価とのリンク
エンジニアのスキルアップのモチベーションを維持・向上するためには、当然のことながら人事評価や報酬制度とのリンクが必須です。またエンジニア当人のモチベーションだけでなく上位マネージメントの理解・支援も必須であることから、マネージャの評価についても配下のエンジニアのスキルアップがマネージャの評価につながるような仕組みの構築が必要となります。

なお、当然ながらエンジニアの評価は保有スキルだけでなく、参画したプロジェクトがどれだけ新たなビジネス価値創出につながったかが最も重要な指標であり、スキルと合わせた多面的な評価が必要であることは言うまでもありません。

3.まとめ

以上ウォーターフォールエンジニアとの比較において、アジャイルエンジニアに求められるコンピテンシーと育成のポイントについて考察しました。次回後編ではケーススタディとしてアジャイル型ソフトウェア開発サービス会社として10年以上の経験と実績を誇るMitrais社におけるアジャイル人材のマネージメントシステムM-CMS(Mitrais Competency Management System)を紹介します。

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