DX時代に向けたオフショア開発のチャレンジ【前編】

多くの日本企業では、IT人材の不足が顕在化しており、国内の人材確保はもちろん、オフショア開発の活用など、海外にも人材不足解消の対策を広げています。しかし、昨今のグローバルな市場の加速化が進むなかで、今後も我々は十分なIT人材を確保し続けることができるのでしょうか?DXが求められる激しい環境に適応できる優秀人材はどこにいるのでしょうか?
本記事は、日本企業のオフショア開発の現状からその特徴と問題点を解析し、DX時代における高度人材育成・確保の対応方法およびオフショア開発の在り方を探ってみたいと思います。
執筆者:鄧 彬(株式会社シーエーシー)
1.オフショア開発の現状と危機
1980年代から日本企業は開発コストの削減のため、中国におけるオフショア開発を始めました。2000年以降オフショア開発への取組みが本格化し、中国だけでなく、ベトナム、フィリピンなど東南アジア諸国にもその対象が広がっています。
総務省の調査によると日本企業がオフショア開発に取り組む目的として、コストの削減と人材不足の課題解消が挙げられます。
図1.日本企業のオフショア開発取組みの目的
出典:
総務省の「オフショアリングの進展とその影響に関する調査研究報告書」
多くの企業はコスト削減の効果を求めて、より人件費の安い地域に委託先を開拓しています。しかし、これらの委託先も、経済発展に伴う人件費高騰や国内需要急増に伴う日本企業向け技術者の不足が発生する可能性があります。そのため、継続的な低価格人材の確保が可能かどうか、先行きは不透明なものとなっています。
一方で視点を変えて、オフショア開発を推進することによる日本企業側の影響も注目が必要です。オフショア開発の対象となる業務は、プログラミングやテストを中心としたプリミティブな部分が多く、要件定義など上流工程は日本国内で行うケースが一般的です。結果として、日本国内のIT技術者は上流工程のみを担当する業務SEに特化してきており、技術を得意しなくても十分に仕事をこなせる状況が生まれています。つまり社内の技術力が徐々に低下してきている可能性を考慮しなければなりません。
このようにオフショア開発による工程の分断が慢性化することによって、技術に関わる作業がますます外部依存になり、自社のエンジニアが高度な技術力を失ってしまうと、自社のIT人材を育成すること自体が困難になりかねません。
2.DX時代における人材不足課題の本質とは
2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」を機に、多くの企業が危機感を募らせ、DX推進に対して本腰を入れ始めました。それを実現するためには、ビジネスと技術の両方のスキルを保持した高度人材が欠かせないものとなります。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査(概要)」の試算では、2030年にIT人材は45万人不足すると予測しています。(図2を参照)
更にその45万人不足するIT人材を従来型 IT人材(※1)と先端 IT人材(※2)と分けて、それぞれの需給ギャップを細分化してみると、どのパターンでも先端IT人材の不足人数がより多いとの結果が得られ、質的人材不足がより深刻に見えます(図3を参照)。
※1従来型 IT システムの受託開発、保守・運用サービス等に関する市場に従事
※2IoT 及び AI を活用した IT サービスの市場に従事
図2.2030年におけるIT人材需給
図3.従来型IT人材と先端IT人材の需給ギャップ
今後、企業が求めるIT人材は質的に優れている必要があり、いわゆる「高度IT人材不足」という根本課題の解決に取り組まなければなりません。単に作業者を補充するだけではDX推進の成功を実現できないでしょう。
3.次回へ
次回は、高度IT人材が不足するDX時代に向けて、オフショア開発はどんな役割を担うべきか、またそのためにどんな新しいチャレンジが必要かについて解説します。