アジャイルコーチが見た開発現場~初めてのアジャイルでつまづく12のポイント~【プロジェクト開始時②】

プロダクトオーナーの最大の悩みはバックログです。特に初めてプロダクトオーナーを務める方は、どのようにバックログを書けばよいのか悩む方も多く見られます。ユーザーストーリーに基づき要件を分解して書けば良いと参考書などには書いてありますが、これが実際にはなかなか難しくてうまくいきません。
また、アジャイル開発ではチームのコミュニケーションが非常に重要ですが、まだアジャイルに慣れていなくて活発な意見交換を行えないメンバーも時々います。その場合、スクラムマスターとしては何を注意しべきでしょうか。
今回は続けて、このようなプロジェクト初期に起こりやすい問題について、その解決策と注意点を解説します。
1.開発できないバックログ
アジャイルプロジェクトでは要件を最初に確定しませんが、とはいえ要件の洗い出しは行います。
これを基にバックログを作っていくのですが、同時に必要となるのはシステムアーキテクチャです。業務要件だけを見ていてもバックログは整理できません。本当に簡単なシステム(例えばシンプルなウェブサイトなど)であれば、あまりシステム面の検討は不要かもしれませんが、業務システムを作る場合は、必要な機能と構造を描かなければ開発に入ることができません。
実は、システム開発の観点で考えれば設計をしない開発などありえないことはすぐにわかるのですが、バックログという目新しい手法を使った場合、特にITの知見がない方は、”設計する”という考えが抜け落ちてしまい、業務要件を説明すればすぐに開発が始まると誤解しがちです。
こうなると困るのは開発者です。
バックログを説明されても全貌がわからない、システムもイメージできない、実装する方法も定まらない、と疑問ばかりが出てきてしまい困惑してしまいます。開発を始めるためには他にも環境準備やコーディング規約の策定、DB設計など複数のタスクが発生しますので、これらを実施する時間を確保しておきましょう。
続いて、バックログ作成で難しいと感じる点は、その粒度です。
バックログにどこまで書けばよいのか?というご質問をよくいただきます。
アジャイルに関する書籍やウェブサイトでも、このあたりの説明はされていないことが多く、経験の浅いプロダクトオーナーが悩むポイントとなっています。
私は、初期のバックログはなるべく丁寧に書いていただくことを推奨しています。可能な限り細かく丁寧に具体化することで開発者との認識ズレを防ぐことが重要です。
”バックログにはやりたいことを簡単に書けばよい”と述べている書籍やウェブサイトもありますが、これは内製化が一般的な欧米企業の話であって、日本企業がITベンダーの協力を得てシステム開発をおこなう場合には通用しません。日本でも成熟したアジャイルチームなら簡単なバックログで開発ができるようになるのですが、そのようなケースはさておき、多くの場合は社外のITエンジニアに開発を依頼するわけですから、業務やビジョンを知らない想定をしたほうが現実的です。
そのため、プロジェクト初期はなるべく丁寧に説明することを心掛け、チームが成長してくるに従い、バックログの粒度を少し荒くして開発者の自由度を増やすというアプローチが最も効果的なのです。
バックログには事業の夢が詰まっています。その夢を夢のままにするのではなく、現実のものにするために、バックログを使いこなしてほしいと思います。
2.静かなチームメンバ
プロジェクトが始まり、チームが立ち上がってくるとそれぞれの個性が現れてきます。
スキルが豊富な人、仕事が早い人、発言の多い人、周囲に気遣いできる人・・・
それぞれの強みを活かし、弱みを補完することがチーム強化のポイントとなります。
そのなかで一番気を遣って欲しい人は、静かな人です。
アジャイルチームはコミュニケーションが非常に重要であり、お互いの連携プレーによって成り立ちます。そのため、発言の少ない方は連携が弱くなりがちで、その人を助けることも、逆に助けてもらうことも難しくなります。
発言が少ないことは必ずしも悪いことではないのですが、お互いの考えをシェアするメリットを享受しにくいという意味ではあまり推奨できることではありません。そのため、開発経験の少ない人、寡黙なタイプの人、コミュニケーションが嫌いな人は発言が少なくなりがちなので、周囲の人も積極的に質問して意見を引き出す必要があります。
例えばそういったタイプの人をそのまま自主性に任せてケアしないとどうなるでしょうか?
日々の発言が少ないと、タスクの獲得や理解が遅れがちになり、自分で開発するという意識を持てなくなります。開発する意識を持てないと仕事を楽しむことも難しくなりますので、モチベーションがあがりにくい状況となります。結果的に指示を受けてのタスク処理となり、自律的な行動をとらないことが常態化してしまいます。
やがてチームに所属する意識も低下し、デイリーミーティングに不参加になったり、プロジェクトへの参加姿勢が消極的なものへと変わっていく・・・・というのはいささかネガティブな想定と言えますが、実際に起こる可能性であり、プロジェクトを成功させるためには避けたい事態です。
そのような事にならないために、スクラムマスターやチームメンバーはお互いをケアしあう姿勢が重要と考えます。具体的な行動は、以下の3つです。
◆自ら発言し、他の発言を促す
会議において、自分の意見を述べることはもちろんですが、積極的に相手の意見を求め、発言してもらうという行動がとることで、活気のある会議となり全員が参加している意識を持つことができます。
◆スクラムマスターはメンバーのモチベーションの確認をする
スクラムマスターはタスク進捗だけでなくチームメンバーのモチベーションにも気を配りましょう。ふさぎこんでいる人がいるようであれば1on1などで話を聞いたりアドバイスすることはとても効果的です。
◆その人の価値を見出す
お互いがお互いを信頼することでチームの絆は強化されます。その人に期待すること、任せたいこと、頼りにしていることを明確にすることで、任された人のモチベーションもあがってきます。
繰り返しになりますが、アジャイルチームのパフォーマンスの根底にはコミュニケーションがあります。コミュニケーションを通じてお互いを補完しあう、頼り頼られの関係性を築くことでチームは成長し、すばらしい結果を生み出すことが可能になると私は信じています。
3.次回へ
次回は続けて、プロジェクト遂行時に陥りがちなポイントをピックアップして説明したいと思います。