産業用メタバースの国内外活用事例集

前回ではメタバースの概要と汎用事例を中心にご紹介しました。メタバースというと、一般にイメージされるのはエンターテインメントやコミュニケーションの分野での事例ですが、製造業など産業分野でもメタバースの活用に取り組む企業が増えつつあります。そこで今回は、国内外の代表的な産業用メタバース活用事例をご紹介いたします。
なお、メタバースという言葉が今日のように広まる前から、産業分野ではデジタルツインという概念が提唱され、取り組まれてきました。デジタルツインは、現実世界の情報をIoT技術により収集し、現実世界の「双子」(ツイン)のような環境をデジタル空間内に再現したものです。メタバースとは異なる概念という捉え方もありますが、デジタルツインを推進してきたベンダーが、デジタルツインを「産業用メタバース」と呼称する動きもあることから、ここでは、デジタルツインをメタバースの一種として扱います。
1.産業メタバース活用事例
製造業界においては、プロトタイプの開発や故障予測等のシミュレーション、緊急事態への対応訓練、技術継承・研修、機器等の修理メンテナンスなどの業務改善といった幅広い領域での活用が模索されています。実験にとどまらず、実際の業務の中で既にメタバーステクノロジーを活用し、企業の発展に大きく寄与している実績も出てきています。皆さんがこれからメタバースを活用する上での参考となる事例をご紹介します。
1-1海外事例
Nvidia(エヌビディア):産業用メタバースを実現するソリューション「NVIDIA Omniverse Enterprise」を提供
Omniverse Enterpriseは、アメリカの半導体企業Nvidiaが提供する産業用のメタバース構築の基盤となる、3Dコラボレーション、建物や製品のデジタルツイン環境を開発するためのリファレンスプラットフォームであり、大規模かつ高精度の仮想世界の構築を支援するサービス提供をしています。現在は自動車やロボットをトレーニングするための大規模なシミュレーション環境の構築に多く利用されています。
紹介サイト:https://www.nvidia.com/ja-jp/omniverse/enterprise/
Renault(ルノー):産業用メタバースの活用で業務の効率化を図る
ルノーグループは、産業用メタバースを立ち上げ、生産ラインの全てをメタバースに接続し、供給フローの90%を仮想空間上でリアルタイムに監視するようにしました。仮想空間上では、何十億ものデータを収集し、品質向上、オペレーションの最適化に貢献しています。
これらの取り組みにより、車両納期の大幅な削減、自動車製造時の二酸化炭素の排出量削減が一層進むことができるようになります。自動車のような精密な製品もメタバースの活用によって大きなコスト削減が実現できることは、メタバースの今後の活用意義を後押すると思われます。
紹介サイト: https://mobilemarketingmagazine.com/renault-group-launches-the-first-industrial-metaverse
BMW:プロトタイピングにARを利用して開発サイクルの短縮を実現
BMWグループのミュンヘンの工場では、最新技術の車両部品とプロトタイプの開発にARエンジニアリングスペース(Augmented Reality Engineering Space)を導入しました。AR技術とグランド上の製品データを組み合わせることで、部品のCADデータを3Dで可視化し、断面もリアルタイムで作成でき、車両の内部構造を立体ビューで観察できます。また、世界の様々な場所に分散している技術者がグローバルチームを組んで共同設計とレビューを行うことができるようになりました。
このような取り組みによって、BMWは車両モジュールの検証プロセス期間を最大1年短縮可能になりました。
紹介サイト:https://holo-light.com/bmw-uses-ares-in-prototyping/
1ー2国内事例
川崎重工:産業メタバースによる「Kawasaki Digital Platform」の構築
産業用ロボットの世界的なリーディングカンパニーである川崎重工は、プロセス変革戦略の一環として、Microsoft社と連携して産業メタバースに取り組んでいます。ロボットを使った製造現場において、クラウドコンピューティングプラットフォームやエッジAI技術、MRデバイスを利用し、メタバース上での共同作業や、デジタルツインによる遠隔地からのロボット操作の実現を目指しています。
紹介サイト:https://www.khi.co.jp/news/detail/20220525_1.html
ダイキン工業:「止まらない工場」を実現し、ロスを低減させる
空調機器事業の売上高でグロ―バルNo.1のダイキン工業は、デジタルツインの機能を備えた新生産管理システムを大阪府の工場にて実現しています。工場内の製造設備などにカメラやセンサーを取り付け、部品の流れや組み立てなど各工程の状況を監視し仮想空間上に再現します。さらに、過去の事象を分析し、将来起こりうる事象をシミュレーションすることで、生産の停滞や故障の原因となる潜在的な課題の抽出、事前予測などを実現しています。
このようなデジタルツインを搭載した新しい生産管理システムを導入することで、同社は生産ラインにおける30%以上のロス削減を見込んでいます。
紹介サイト:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01970/030200002/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard
2.まとめ
今回はメタバースの製造業における活用事例を紹介しました。実験段階にとどまる事例も多くある中で、生産性向上、業務効率、コスト削減など経営に直結する課題の解決に取り組まれている事例も多く出てきており、今後の活用に大きな期待を持てる技術ではないでしょうか。
メタバースはインターネット上の仮想空間にとどまらず、リアルな世界と同様な精度でネット上に空間を構築することで、現実世界での様々な課題を解決する手段として使用されるようになっています。メタバースに対してポジティブな思考を持ちながら、参考にして頂ければと思います。