企業がアジャイルを導入する際に経営者が心掛けるべきポイント

日本でも近年はアジャイルに取り組んだり、もしくは取り組もうとしている伝統企業が増えてきています。
新興テック企業と違って、伝統企業のアジャイルの取り組みには、ビジネス習慣、人材リソース、作業プロセス、テクノロジーなど多くの面で従来のやり方と大きく変わるので、既存組織の変革も求められます。
今回は、海外のアジャイルコーチも指摘する企業がアジャイルに取り組む際に注意すべきポイントと日本事情を考慮しながら、経営管理者として心掛けなければならないポイントを説明します。アジャイルの導入を検討している経営管理者やアジャイル推進者にとって少しでも取り組みのヒントになれば幸いです。
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1.アジャイルで何をしたいのか明確にする
企業がアジャイルを採用する理由は様々ありますが、例えば、自社のDX推進のため、プロジェクトの迅速な達成のため、業務変革のためなどが挙げられます。一方で、そのような採用理由を明確に持たずに、アジャイルを用いている”状態”を作ろうとしている企業も見られます。
アジャイルを用いて開発することは、“手段”であって“目的”にはなりえません。
それでは、これからアジャイルを採用しようとしている企業は、どのような目的を設定すべきでしょうか?
最も重要なことは、理想としてのゴールを明確にすることです。
ゴールのサイズ感はあまり気にしなくても構いません。例えば、顧客が満足するサービスを一番に提供したい、社会課題を解決する製品をいち早く作り上げたい、業務を迅速にこなす組織を作りたい、社員一人一人が自律的に行動できる組織にしたい、などなど。そのゴールを早く確実に達成できるよう、今の組織に存在する無駄な作業を取り除き、時代に沿わないプロセスを効率化するためにアジャイルを取り入れることが大事です。
「変化を歓迎し、顧客が仕事の中心である」はアジャイルの価値観の原点であり、VUCA(Volatility-変動性、Uncertainty-不確実性、Complexity-複雑性、Ambiguity-曖昧性)の時代における企業に最も必要なことと言えます。
多くの方はアジャイルの普及が進んでいる欧米と比較すると日本に遅れを感じるかもしれませんが、日本企業は本来「製品、サービスの追求」という強みを持っています。より良い製品を作るためのノウハウは既に企業として持っているはずですし、実際に日本製品というだけで世界に評価されるほどの高品質を実現できています。
必要なことは、変化の時代において素早く確実に提供することであり、顧客の満足度や生産性、ビジネス価値を高める方法をゴールとして設定すべきです。それを実現するための手段としてアジャイルが強力な後押しになります。
2. トップのコミットメントこそがアジャイルの取り組みの鍵
企業や部門がアジャイルに取り組もうとする際、経営陣や部門長など組織のトップがアジャイル導入する旨を組織内に伝え、メンバーがアジャイルプロジェクトを立ち上げて進めるケースが多いと思われます。
経営陣が目標を伝えること自体は素晴らしいことなのですが、上から下に流れるトップダウンの指示だけでは、メンバーが単なる計画の執行者となってしまい、形式的にアジャイルプロセスやプラクティスに取り組んでしまうかもしれません。メンバーがより良い商品やサービスを開発するために自ら取り組んでいく意欲がなければ、結果的に大きな変化をもたらすことはできません。
このような形骸化したアジャイルを避けるためには、組織全員が自ら改善したい、取り組んでいきたい意欲、いわゆるアジャイルマインドを持つ必要があります。
マインドを形成するためには、企業文化を考える必要があります。自立心を養う風土があるか、よりよい価値を見出す議論が活発にされているか、経営者は再確認すべきかもしれません。
そのためには、まずトップ自身が率先してアジャイルマインドを持ち、組織変革に取り組み、風土の変化と意義をメンバーに理解させることです。部下やメンバーもその本気度を感じ、自分達も自主的に何かしようとする意識変化が促進されます。
アジャイルの取組みにおいてトップが果たす役割のもう一つは、組織全体がアジャイル支援を行えるようにすることです。
新たな取り組みとして、まず小規模のプロジェクトから実験的に行ってみることは問題ありませんが、アジャイルプロジェクトが効果を発揮するには周りの関係者も含めて組織全体の支援が欠かせません。
優秀なエンジニアが集まってチーム内で工夫しても、開発された製品やサービスを顧客の手に届けるまでのあらゆる作業がチーム内で完結できるとは限らないため、周りの関係者の理解とフォローが必要です。
典型的なパターンとして、プロジェクトがアジャイル開発を行っているにもかかわらず、外部パートナーとの契約や見積、上層部への報告や承認要求、人材調達など組織のルールをウォーターフォール型のまま変更せず、アジャイルと反する意識と行動をとっている場合、プロジェクト内外において無理やり感と矛盾が発生しやすく、期待したベネフィットが得られませんし、メンバーのモチベーションも下がる可能性が高くなります。
トップのコミットメントによって、組織全体を巻き込むアジャイル支援、少なくともアジャイル推進部隊と関係する組織の変革が期待されます。
上述のように自己組織化されたアジャイルチームは一朝一夕に出来上がるものではなく、トップのコミットメントの下で、企業としてガバナンスを効かせつつも、中間管理層やリードする立場にある者、関係する部門など、組織全体の意識とルールを改革していくことが重要なポイントとなります。
3. アジャイルにおける短納期を正しく理解する
時折、アジャイル開発では早く開発し納期を短縮できるという意見が聞かれ、アジャイル推進者や管理層がこれを一つの評価指標として考察しているケースも見られます。しかし、これは本当に指標として正しく設定されているでしょうか?
確かに「アジャイルソフトウェアの12の原則」には、「顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供します」「動くソフトウェアをできるだけ短い時間間隔でリリースします」と挙げています。しかし、これは納期を早くするということではなく、顧客ニーズの変化に早く対応するという意味なのです。
アジャイルでは、事前に完璧な計画を立てて、一度で完璧な製品を開発することができないことを前提とします。そのため、より短いサイクルで使える製品を小さく開発し、早く顧客のフィードバックをもらい、次の改善点を考え出し、顧客が欲しい製品やサービスを早く提供することを目指します。
そのため、アジャイル開発ではサービスインまでの周期を短縮できますが、その後の顧客ニーズの変化に応じて製品の改善と取捨選択の見極めを継続的に行いますので、一度だけの納期にはなりません。一回の大きなサイクルで製品を完成するウォーターフォール開発の納期とはまったく異なる概念となります。
せっかく柔軟性の高いアジャイル開発を採用しているのですから、我々も時代の変化に従い、少しずつ従前の考え方や固定概念から脱出し、焦点を納期や規則などから製品やサービスの継続改善へシフトしていくべきではないでしょうか。
4. まとめ
今回は経営層がアジャイルの導入を決定、推進する際に心掛けなければならないポイントを紹介しました。
周知のとおり、現在アジャイル手法として利用されているスクラムなども、トヨタ生産方式の考え方が基になっているので、日本企業はアジャイルに対して苦手意識を持つ必要はありません。適切な計画と正しい方法でアジャイルを導入し、本来の強みをもう一度発揮できると考えます。
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【CACエンタープライズアジャイル支援サービス】
参考サイト
https://medium.com/awesome-agile/top-10-mistakes-organizations-make-to-become-agile-3a83536e3285
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-2.pdf