運送業界のDX成功事例から学ぶ成功への近道:UPSのDX化

世界的運送会社であるアメリカのUPS(United Parcel Service)は1907年に設立され、現在まで、220以上の国に荷物や書類の配送を行っています。UPSの荷物や書類の配送量は1日あたり約2000万件あり、パンデミック以降は他の運送会社と同様、配送量は160%まで急増しました。
その影響により、他の運送会社の定時配送率が75%まで下がった状況に対し、10年前からDXを推進していたUPSは、定時配送率が98%から95.4%に若干下がったものの、2020年の売上は約850億ドルで、競合他社のDHLとFedExの売上を上回っています。

本コラムでは、UPSのDX化成功の背景やプロセスを紐解き、企業がそれらから何を学ぶことができるかを見ていきます。

1.UPSが抱えていた課題とDX推進の背景

UPSのDXへの取り組みは10年前から始まります。

毎日約2000万の荷物や書類を配送する中で、配送物を追跡することは非常に複雑で解決すべき大きな課題でした。特に配送物がトラックに正しく積荷されているのかを確認する手段がなかったため、配送中にドライバーが間違った配送物が積まれていることに気づいた場合、予定している配送ルートから離脱して配送するか、管理部門と連絡を取り、正しいトラックに移行するしかありませんでした。
これにより、相当な時間とお金の損失が恒常的に発生していたのです。

【UPSの課題】
 1) 最適な配送ルートの算出
 2) 全ての配送物のリアルタイム追跡

これらの課題解決に向けて、UPSはビックデータ分析のAI活用に重点を置き、DXに着手します。初期段階での200億ドルものDX投資額に対し、投資家たちは懐疑的でしたが、今では投資以上に成果を上げていることは明らかとなっています。

2.UPSのDX推進の3つのステップ

下図のように、UPSのDXは3つのステップに分けて推進されました。

UPSのDX

The Power business schoolの内容をもとに図作成

STEP①:ORION開発

第1のステップはORION(On-road Integrated Optimization and Navigation)の開発です。

ORIONは過去の配送ルートや配達時間、交通状況、燃料消費量、エンジン性能などのあらゆるデータを分析し、配送に最適なルートを算出するシステムです。これらのデータはトラックに設置されている数百のセンサーから発信され、中央のデータウェアハウスで処理されます。

ORIONは2億5000万を超えるデータポイントを数秒で分析し、1分あたり数万のルートを拡張生成することができます。これにより、燃料消費量が1年あたり1,000万ガロン削減し、約5,000万ドルのコスト削減に成功します。

これにより、1ドライバーあたりの配送量が1日あたり90件であったのが、1日あたり130件まで上昇しました。

STEP②:EDGE開発

第2のステップはEDGE(Enhanced Dynamic Global Execution)の開発です。

EDGEは内部の運用プロセスを改善するためのシステムです。各トラックにBluetooth受信器を設置し、作業者が間違ったトラックに配送物を積むと警告音が鳴る仕組みになっています。配送物が正しいトラックに積まれた場合も、音を使って正しいトラックに積まれていることを確認できます。

また、作業者が荷物のラベルを読み取るスキャナーのワイヤレス信号を、さまざまなBluetoothデバイスのワイヤレス信号と組み合わせることで、全ての配送物のリアルタイム追跡を実現しています。これにより、配送の遅延が減り、配送に関して顧客が知りたい細かな情報も提供できるようになりました。

STEP③:NPT開発

第3のステップはNPT(Network Planning Tools)の開発です。

NPTは最先端のビッグデータを活用したシステムです。全ての配送物を追跡するだけではなく、追跡データと天気、交通などの外部のデータを組み合わせることで、配送のボトルネックを特定し、排除することができます。これにより、業務フロー全般の効率が向上しました。
また、顧客対応サービスの最適化を図るシステムとして、AIを使ったチャットボット機能をもつアプリケーションを開発します。

このアプリケーションでは配送物の追跡、配送料、小売店の場所などの問い合わせ対応を迅速にサポートすることが可能になります。アプリケーションからのデータはNPTに集積された後、分析され、最終的にはカスタマージャーニーを最適化するために使用されます。

NPTの活用事例の1つとして、全ての配送物やドライバーの状況を把握するために、各管理者には常にドライバーの情報、処理すべき配送物の量、処理にかかる時間(速度)、各チームの業務量などの情報が送られ、グラフ化によって可視化されます。
以前は、一晩中配送量を計算するために、過去履歴や直接ドライバーに確認するしかなかった状況に対し、各段と業務効率が上昇しました。

もう1つの事例として、2020年12月から行われたコロナワクチンの配送があります。
例年配送量がもっとも多い年末とパンデミックが重なる状況で、UPSはコロナワクチン配送業者として選定されます。実際にコロナワクチンの最初の出荷は、2020年12月13日の週に行われました。
UPSはコロナワクチンの安全でタイムリーな到着を担保するために、配送テクノロジーと冷却ソリューションに数百万ドルを投資します。例えば、各キットに温度と場所をリアルタイムに監視できる専用の追跡デバイスを装備することで、緊急の社会的ニーズに応える信頼性の高い配送サービスを実現しました。

3.UPSのこれから(まとめ)

UPSのDXはビックデータの高度な分析にAIを活用することがポイントで、現在も進行中です。

最近のプロジェクトの1つでは、2021年末に自律走行トラックのテスト運行に着手しています。自律走行自動車専門企業であるWaymoと協同で、テキサスで6週間に渡り行われました。トラックにはドライバー1人と運転状況をモニタリングするソフトウェア技術者1人が乗り、自律走行の効率性と安全性をテストしています。テスト結果については非公開のため、詳細を語ることはできませんが、UPSとWaymo双方にとって、より効率的な配送に向けた自律型走行ソリューションの実用性を示す良例になりました。

UPSのこれらのDXは、本来の目的である配送速度を向上させるだけではなく、業務フロー全般の効率向上も実現しています。前述のとおり、パンデミックによって急増した配送量にも問題なく対応することを可能にしました。
競合他社の多くがパンデミックによってもたらされた課題への対応に苦戦している中、UPSは明らかに競合より優位のポジションを確立したのです。

DX_UPSとDHLの売上比較

下記Statistics社公表の数値をもとにグラフ作成
https://www.statista.com/statistics/270108/ups-revenue-and-net-income/
https://www.statista.com/statistics/316330/revenue-of-deutsche-post-dhl/

UPSは現在もこのようなテクノロジーに年間約10億ドルを投資しており、これらの投資は業務効率の向上とコスト削減に貢献し続けています。
ただ、UPSほどではないものの、FedExとDHLもビッグデータの活用を始めており、Amazonも運送業に参画するとの動きがあります。Amazonは競合他社よりはるかに大きなデータセットを使用することができ、UPSだけでなく、運送業界全体にとっても脅威になるはずです。また、Amazonは他社よりAI活用にも優れており、対抗するためには取得可能な全てのテクノロジーと分析をフル活用する必要があります。

UPSのDXから学べることは、課題の把握とそれに合わせたデータの収集と活用、現状に満足せず改善策を探し続けることです。競合他社より有利な状況であっても、データ活用をベースにしたドローンや自律走行トラックを利用した配送など、最先端の技術に投資を惜しみません。

今後も競争が激しくなる中、このようにDX推進の歩みを止めることなく革新し続けることは、これからの時代を勝ち抜くための最重要事項であり、UPSがこの先どのような革新を実現し続けていくのか大いに注目されます。

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