小売業のDX成功事例から学ぶ成功への近道:ウォルマートのDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)で成功を収めるには、組織全体にわたる明確なビジョンと理解が必要です。

適切なリーダーの配置を手始めに、デジタル活用のための環境整備・開発への投資、企業文化および企業活動の変化に向けての活発で明確なコミュニケーションを確保し、ツールとプロセスをデジタル化することはすべて、変革の成功を推進する上で重要な役割を果たします。

本コラムでは、このようなプロセスを経て実現したDX成功事例として、アメリカ小売業大手「ウォルマート」のサクセスストーリーを紐解き、企業がそれらから何を学ぶことができるかを見ていきます。

1.ウォルマートがDXに投資する目的

アメリカ最大の有店舗小売業者であるウォルマートは、EDLP(Every Day Low Price)の価格戦略と親しみのあるブランドイメージで、長年にわたって大きな成長を遂げてきました。
顧客サービスの向上を目的としたデジタル化に焦点を合わせ、現在はeコマース(EC)に重点を置いた事業展開に注力しています。

具体的には、2018年には「eコマースビジネスのリプラットフォームから全面的なリプラットフォーム」に焦点を合わせ、DXテクノロジーに117億ドルを費やしました。
また、DX実現を加速するべく、いくつかの戦略的パートナーシップを構築しています。
Microsoftとの提携では、クラウドジャイアントのコンピューティング能力を活用し、人工知能、機械学習、データ分析イニシアチブを拡張し、Googleとの提携では、音声対応のショッピングを実現しています。
デジタルテクノロジーの影響を強く受ける顧客のライフスタイルの変化を見越して、2018年にインドのオンライン小売ブランドFlipkartを買収して以降も、アメリカのeコマースインフラストラクチャに多額の投資を行っています。

このような小売業者のデジタルシフト(eコマース強化)は、Amazonの影響力の高まりが大きな要因の一つであることは明白です。
さらに、Covid-19のパンデミックの蔓延に伴い、店舗での買い物を控えざるを得ない状況も相まって、多くの顧客が主な購買手段をオンラインショッピングに切り替えました。人々のライフスタイルへの影響は大きく、パンデミック収束後もこれらの変化は続くことは間違いありません。

ただし、ウォルマートのDXがAmazonとは異なり、売上・利益の確保・最大化を最終的なゴールとするのではなく、別の次元において、より高い顧客満足度を創出するためのDX実現にある点は見逃せません。

オンラインストアからサプライチェーンやロジスティクスに至るまで、デジタルテクノロジー、AI、IoT、が急速な変化を遂げており、テクノロジーの活用によって変化する市場のシナリオと顧客の購買習慣の変化に迅速に対応する能力にかかっているといえます。

2.ウォルマートがDXを推進する背景

【DX推進の主な要因】
1)アメリカの人口動態の変化
2)消費者の習慣と期待の変化
3)モバイルコンピューティングの台頭
4)より高速で効率的なサービスの必要性
5)Amazonの成長に対するチャレンジ

1)アメリカの人口動態の変化
アメリカ国内の人口動態の変化やeコマースの台頭などの変化は人々の買い物の仕方を変えました。
中でも、成人人口の最大のセグメントであるミレニアル世代の小売業者に対する期待は、ベビーブーマー世代とは大きく異なります。

2)消費者の習慣と期待の変化
ミレニアル世代はテクノロジーに精通しており、高度にデジタル化された生活を送っています。
彼らは、さまざまな製品やサービスをオンラインで購入することを好み、日常の娯楽や音楽やファッションなどのニーズをオンラインチャネルに依存しています。

また、ソーシャルメディアの台頭とミレニアル世代の消費習慣は密接で、ウォルマートの競争力(強み)である価格戦略は、ミレニアル世代の期待に応えるために十分ではなく、より高速で効率的な、優れた販売モデルに移行する必要がありました。

3)モバイルコンピューティングの台頭
モバイルコンピューティングの使用が増え、小売ブランドのテクノロジーにおいても、その依存度は高まる傾向にあり、今後もさらに進化することが予想されます。
より高いモビリティの必要性は、テクノロジーへの投資を促進し、最終的な購入に行く前にスマートフォンで価格を比較するという顧客の購買習慣を変えました。

4)より高速で効率的なサービスの必要性
ミレニアル世代に対しては価格以外にも、購入する前に考慮すべき要素があります。競争の激しい小売業界で勝つためには、顧客の利便性がこれまで以上に重要になるのです。
顧客の利便性を上げるためには、時間の節約、コスト削減に貢献するデジタルテクノロジーに焦点を当てる必要があります。

5)Amazonの成長に対するチャレンジ
ウォルマートを急速なデジタル化に向かわせた大きな要因は、eコマースの巨人であるAmazonの台頭でした。
アメリカのeコマース売上高に関して、ウォルマートはアマゾンを追随するポジションにありますが、現在もかなりのギャップがあり、今後もデジタル技術への継続的な投資を通じ、その地位を強化しようとしています。

DX事例_小売_図1

出典:
FINANCIAL TIMES社公表の数値をもとにグラフ作成

パンデミックとともに社会全体のデジタルシフトが加速する中、人々の購買習慣は確実に再形成されており、消費者は今後もさらにオンラインショッピングにさらに依存するのは間違いありません。

3.サプライチェーンのDXとデータ活用

ウォルマートは、eコマースに限らず、ビジネスシステムのすべての分野でより高度なデジタル化を図ってきました。
サプライチェーンから販売、顧客サービス、マーケティング、店舗運営に至るまで、運用効率とコスト効率を高めるデジタル化への投資の中でも、サプライチェーンのデジタル化は、オムニチャネル戦略成功のための最初の重要なステップといえます。

デジタルの活用で高度に最適化されたサプライチェーンは、小売ブランド競争優位の源泉として一貫して低価格を維持するのに貢献し、コスト効率を高め、従業員のパフォーマンスを向上させることができます。
サプライチェーン全体で情報を共有し、アメリカ内の店舗や倉庫全体で在庫の追跡・管理も可能になります。

アメリカの有店舗大手小売業者としての競争力は、サプライチェーン全体でデジタル化が進むのと同時進行で強化され、大量のデータへのアクセスにも効果を発揮し、膨大なデータから考察を得て、消費者の行動理解を促進します。
また、重要な在庫管理の意思決定に使用される大量のデータが毎日生成され、コロナウイルスのようなパンデミックが発生した場合においても、顧客のニーズに敏速に対応可能なサプライチェーンの回復力をも高めています。

2018年にはコネクテッドコンテンツプロバイダープログラムを導入し、サプライヤーがウォルマートのカタログや他の小売業者にコンテンツを拡大することも支援しています。

小売業者、サプライヤー、コンテンツのバランスを図って、Salsifyのようなシンジケーションパートナーとともに、サプライヤーがより高速にコンテンツを配信できる環境を整備しています。
顧客が入手できない特定の製品を探している場合は、シンジケーションプロバイダーを検索して、どのサプライヤーが製品を所有しているかを見つけ配送しています。

デジタル化によって、顧客の時間と費用を節約するイノベーションをもたらすことと同じく、組織の生産性を高める業務フローの変更にも着手しており、店舗でのエネルギー消費の削減からロジスティクスの管理まで、クラウドテクノロジーを駆使することで、作業プロセスをより効率的にし、時間と費用を節約しています。
サプライチェーン内の何千台ものトラックをルーティングし、従業員の生産性を向上させ、プロジェクトにおいての共同作業をできるようにさまざまなデジタルツールを用意しました。

ウォルマートが所有するJet.comも、クラウドテクノロジーによって、顧客に効率的にサービスを提供しています。
Jet.comプラットフォームは、オープンソースソフトウェア、Visual F#、およびAzure CosmosDBのようなサービスとしてのAzure Platform(PaaS)で構成されており、Jet.comの次世代アーキテクチャはスピード重視で構築され、次世代在庫処理システムであるPantherを使用して、サービスをより速く、よりスマートに、より効率的に提供可能にしています。

このように、ウォルマートはサプライチェーンから販売、顧客サービス、マーケティング、店舗運営に至るまで、ビジネスのあらゆる側面をデジタル化することに一貫して現在も投資し続けており、運用効率とコスト効率を高めています。

4.ウォルマートの圧倒的なDX

有店舗小売業者からスタートしたウォルマートのサプライチェーンのデジタル化は、オムニチャネル戦略の成功に不可欠であり、これによりオンライン、モバイル、および店舗でのやり取りを通じて顧客に満足度の高いサービス提供が可能になりました。

DX事例_小売

出典:
Statistics社公表の数値をもとにグラフ作成
https://www.statista.com/statistics/183399/walmarts-net-sales-worldwide-since-2006/
https://www.statista.com/statistics/266282/annual-net-revenue-of-amazoncom/

ウォルマートの圧倒的なDXから学べることは、自社ビジネスの基本と成長の可能性に忠実なデジタル活用を定義し、着実にスピーディにDX推進を進めることが重要である、ということです。
ウォルマートのDX実現によって、消費者はアマゾンでは得られないお買い物体験、カスタマイズされた素晴らしい配送、手頃な価格を得ることができるようになりました。

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