DX成功事例から学ぶ成功への近道<飲料業界>:コカ・コーラのDX化

コカ・コーラ社は、ジョン・S・ペンバートンという薬剤師によるモルヒネの代替品の開発から生まれて以来、100年以上に渡って飲料業界を牽引し続けています。現在では、200カ国以上で販売されており、毎日19億以上のコカ・コーラ製品が消費されています。
このような成功は、優れたマーケティングによるところが大きいのはもちろん、その根底には、革新し続ける情熱があります。近年ではDXに注力することによって革新的なビジネスモデルを実現しています。コカ・コーラ社は、社会全体が日々変化し競争が激しくなる中、これからの時代も変わらず世界規模の一大ブランドとして成功し続けるためには、DXが必要不可欠だと認識しているのです。
本コラムでは、DX成功事例から学ぶ成功への近道シリーズの最終回として、コカ・コーラ社のDX成功の背景やプロセスを紐解き、企業がそれらから何を学ぶことができるかを見ていきます。
DX成功事例から学ぶ成功への近道シリーズ:
<小売業>:ウォルマートのDX
<運送業界>:UPSのDX化
<飲料業界>:コカ・コーラのDX化
1.コカ・コーラ社のAI活用
コカ・コーラ社のDXは、社内のあらゆる分野で進められており、製造から消費者体験まで、より斬新でインパクトのある価値を提供するためのテクノロジーが日々生み出されています。
中でも、AIの活用に特に優れており、その始まりは2008年に炭酸飲料と非炭酸飲料との100以上の組み合わせを可能にしたセルフドリンクサーバーの発売です。セルフドリンクサーバーで利用されたドリンクの情報は全てデータとして収集され、蓄積された数十億のデータポイントはAIによって分析されます。このデータ分析によって生まれた新製品の1つにスプライトのチェリー味があります。
また、ミニッツメイドブランドのオレンジジュースの生産においてもAIが活用されています。オレンジジュースは1年を通して生産しなければならない製品ですが、オレンジの収穫期間は1年で3カ月しかありません。1年を通して一貫した品質の製品(オレンジジュース)を生産するために無限量ともいえるデータを収集しているのです。
天気、収穫量、衛星画像、消費者の好み、オレンジを構成する600種類にも及ぶフレーバーに関するデータなど、細かなデータが大量に収集されたビッグデータの高度な分析が、最終的な製品の品質基準を満たすために行われます。
最大で1000億に及ぶ決定変数を必要とする分析プロセスは、数あるビジネス分析の中でも最も複雑なアプリケーションとされるほど、高次元のアウトプット(分析精度)を誇ります。
コカ・コーラ社のAI活用領域は着実に広がり、2018年には独自テクノロジーを搭載した自動販売機が開発されます。現金での支払いを必要としない、アプリ(コーク・オン)で支払い可能な自動販売機です。
アプリを利用することで、消費者はコカ・コーラ発行のポイント・プログラムに参加し、ドリンクの割引サービスを受けることもできます。
さらに、ターゲティング広告にもAIを活用し、パーソナライズ化の観点から以下の3つの情報を特定し、広告配信の最適化・効果の最大化をリアルタイムに推進しています。
Analytics Stepsのコラム内容をもとに図作成
https://www.analyticssteps.com/blogs/how-coca-cola-uses-technology-stay-top
1)特定情報の1つ目は、ユーザー(消費者)の識別です。
収集したデータから、ユーザーの住む場所、購入パターン、製品に関する書き込みなどを特定することで、ユーザーそれぞれに向けて、より個人的な(パーソナライズ化された)アプローチが可能になります。
2)特定情報の2つ目は、SNS上の自社製品画像の検出です。
SNSにアップロードされた自社製品の写真(画像)を特定することで、その写真に合わせた広告配信が可能になります。
SNSの利用が浸透している現在、消費者の購買動機にSNSコンテンツが大きく影響しており、全世界で何十億にもユーザー(消費者)がSNS上で自社ブランド(製品)についてどのように語っている(発信している)のかを理解することは、現代のマーケティング戦略において必要不可欠といえます。
3)特定情報の3つ目は、ウェブ上の自社ブランド(製品)に対するメンションの検出です。
SNS上の画像検出と同様に、ウェブ上の自社ブランドに対する情報流通を把握し、ユーザーの識別情報との紐づけ・掛け合わせで、より個人的な(パーソナライズ化された)アプローチを可能にします。
2.コカ・コーラ社のDXで焦点となった4つの領域
コカ・コーラ社は、デジタルファーストのビジネスへの移行にあたって、次の4つの重点領域を特定しました。
1)エクスペリエンス(体験)の改革
ビッグデータを活用し、消費者、または消費者にサービスを提供する小売店顧客の双方により緊密な関係、よりパーソナライズ化されたエクスペリエンス(体験)を創出します。
2)運用の改革
データとテクノロジーを駆使して業務プロセスの効率を向上させ、必要としない部分を削減します。業務プロセスにおける社内の障壁を取り除くことで社内業務の効率化を図ります。
3)ビジネスの改革
他社の良いアイデアを取り入れるだけでなく、企業内部での試行錯誤を推奨し、今までにない新たなビジネスモデルを創出します。
4)文化の改革
従来のCPG(Consumer Packaged Goods:消費財)メーカーと見なされてきた企業イメージを打破し、会社の自己意識と構造を変えます。
DXにおいてコカ・コーラ社の強みの1つは、その規模です。世界中で約13億人の消費者が利用しており、毎日世界人口の約18%と関わっています。その豊富なデータを活用することで、パーソナライズ化されたエクスペリエンス(体験)の創出を実現しました。デジタル技術のフル活用によって、コカ・コーラ社は消費者と共創する企業を目指しているのです。
3.コカ・コーラ社のDX実現における4つのポイント
コカ・コーラ社は、DXの先駆者としてデータ分析に注力することで、今では高次元なアウトプット(分析精度)を実現するDXの成功企業になりました。
DX成功の始まりとなる問題から解決に向けてのプロセスにおいて、以下の4つのポイントが挙げられます。
ポイント1:分離(分断)されたシステムは時代遅れで通用しない
以前のコカ・コーラ社では、3つの異なるシステムを利用しており、従来のオンプレミス型システムの柔軟性・相互性運用に問題を抱えていました。システムの統合または異なるシステムを同時に連携し機能させるのは非常に困難で、レポートや分析に関する混乱もよくありました。その上、維持コストは高額です。
そのような状況を打破するためには、トータルコストの削減、技術的な構造の簡素化、工数(労働力)管理、品質保証を1つのソリューションでまとめて実現できるプロバイダーに切り替えるようにしました。
ポイント2:新しいソリューションが高コストとは限らない
多くの企業では、新しいソリューションへの移行は高コストかつ予算化が難しいと考えて、新しいソリューションへの移行を躊躇しますが、まずは最も重要なビジネスニーズを絞って新しいソリューションを検討すれば、コストを大幅に抑えることができます。
コカ・コーラ社では、インフラストラクチャやソフトウェアライセンス、運用保守&サポートなどメインのコスト部分について調査を実施し、優先度が一番高い要件を選定し注力した結果、最終的に50%のコスト削減を実現できました。
ポイント3:アジャイルで段階的にアプローチする
時代遅れのシステムの高額なメンテナンスコストを抱える状況において、新たなシステムへの移行が必要です。しかし、全機能を新システムへと一気に切り替えるにはコストもリスクも高いので、段階的に進める必要があります。
そのため、アジャイル開発手法を採用して、常に優先順位が高い運用事項に焦点を合わせ、段階的に新規開発と移行を進めています。結果として、非常にタイトなスケジュールの中でも顧客に影響を与えることなくサービス提供を実現しました。
ポイント4:テクノロジー(技術ベンダー)ではなくビジネスパートナーを探す
コカ・コーラ社でソリューションを探すときの選定基準として、技術だけではなく、自社のビジネス要件実現に向けて妥協せず取り組むビジネスパートナーを探すという考え方はベースとなっています。企業は自ら主導し、自社のビジネス価値に共感できてビジョンの実現に一緒に取り組めるITパートナーと協力することで、自社のトランスフォーメーションを加速させます。
4.コロナ以降のコカ・コーラ社(まとめ)
コカ・コーラ社の収益は、その50%が映画館、飲食店、イベントなどの外部活動をもとに発生しており、コロナ禍で外部活動が減ったため、過去にないほど大きな経済的打撃を受けました。
しかし、コカ・コーラ社ではこのようなコロナ禍をイノベーションの機会とし、DXの強力推進を中断していません。2020年6月にはグローバルオペレーションを統合し、マーケティング戦略の再考から大規模な運用モデルの変更を発表しました。ブランドの強化とイノベーションを最優先事項とし、さらに消費者に近づき、ビジネスの成長を推進しています。
コカ・コーラ社はDX領域にて様々な改革を行い、データ活用と分析に注力しています。現在はビッグデータを事業の予測分析へと転化し、将来のトレンドを予測可能にしました。毎日約13億人の消費者が利用しており、今後も間違いなく継続的に豊富なデータを蓄積することができます。それは、より高次元なアウトプット(分析精度)を出し続ける仕組みの保有者であることも意味します。
このようにコカ・コーラ社のDXの勢いが止まる気配はなく、今後も注目されるところです。
参考サイト:
ウィキペディア:ザコカ・コーラカンパニー
コカ・コーラコーポレートサイト
Consumer Goods Technology
DX成功事例から学ぶ成功への近道シリーズ:
<小売業>:ウォルマートのDX
<運送業界>:UPSのDX化
<飲料業界>:コカ・コーラのDX化