海外のアジャイルコーチが教える現場で心掛けるべきポイント

前回は伝統企業がアジャイルに取り組む際に経営層が注意を払うべきポイントを紹介しました。今回は、より現場の視点でプロダクトオーナーや開発者が心掛けなければならないポイントを説明します。アジャイルの導入に関わっているアジャイル推進者や開発者の皆さんに少しでもヒントになれば幸いです。
1. テーラリングが大切
アジャイルを導入・実践する場合、現状に合わせてテーラリングすることはとても大切です。
多くのアジャイルプロジェクトでは、ガイドや指示に従いプラクティスを忠実に実行されていることが時々見られます。また、事前に用意されたツール一式や社内で決められたスプリント期間、事前設定されたベロシティをそのまま使用する場合もあるようです。
ガイドを参考にしながら開発すること自体は間違いないのですが、すべてのプロジェクトにはそれぞれの状況があり、杓子定規にガイドを遵守するだけでは本来あるべきアジリティを逆に失い、失敗する可能性が高まります。
例えば、スクラムガイドではスプリントプランニングはスプリントの起点であると説明されますが、実際にここで初めて作業内容を決めようとしたら時間がかかりますし、決めた内容を実装できない可能性もあります。そのようなリスクを回避するため、別の機会を設けてインプットとなるバックログの見直しを行ったり、懸念事項を事前調査したり、実装可能な内容を整理してからスプリントプランニングを実施するような工夫が必要となります。
また、ベロシティもチームごとに計る基準が異なる可能性があるため、同じ会社で他のプロジェクトで定着された数値でも必ず自分のプロジェクトで通用するとは限りません。特に初めて特定の業務や技術に関わる場合は、経験豊富なチームでも最初から安定したベロシティを維持することは難しいため、決められたベロシティで自分のチームを安易に評価したり、他のチームと比較したりすることは避けるべきです。
アジャイル開発で最も大切なのは変化に応じて改善していくことなので、絶え間ない変化に適応できる絶対的な標準プロセスやツール、評価基準は存在し得ません。事前に用意されたガイドや推奨されたツールセットなどをヒント集として考えた方がより正しいかもしれません。
プロジェクト初期はヒント集から適応しそうなプラクティスやツールを選定しプロセスを組んでスタートし、開発しながら必要に応じて実行方法や評価指標の改善に繰り返し取り組むことで、アジャイルの効果をより発揮できるようになります。
2. 早期リリースよりビジネス価値を重視すべき
エンタープライズ領域のシステム開発者はどちらかというと、開発自体にフォーカスする傾向があります。アジャイルを採用している場合でも、プラクティスの実践やテストの自動化、機能の早期実装、リリース時期などをより重視してしまい、本来の目的である開発しているシステムがどのような価値を提供できるのかについては、比較的関心が薄くなりがちです。
ビジネス価値という言葉を言い出すとアプリやネットサービスを連想されやすいのですが、基幹システムや大型業務システムの開発においてもビジネス価値の観点を取り入れるべきです。
アメリカの調査会社スタンディッシュグループによる調査では、システムの機能のうち45%は「全く使われていない」という結果が出ており、システムには使われていない機能が多く含まれるという事実を示唆しています。
その壮大な無駄を減らすことは開発者の責任でもあります。せっかくアジャイルを採用しているなら、プロダクトオーナーに任せるだけではなく、開発者も自分が開発しているシステムを通じてどんな価値を提供するのか、無駄な機能はないのか、より利便性の高い機能を作れるかを意識し、一緒に議論する姿勢が求められます。プロダクトオーナーが考えられていない、開発中に気づく改善ポイントはきっと多く潜んでいるのです。
2025年の崖問題として指摘されているレガシーシステムの更改にはアジャイルが解決手段の一つとして今後もますます重要になります。是非、開発者もビジネス価値の観点を加え、無駄の少ないシステムの開発に取り組みましょう。
3. できればウォーターフォールとの組合せを避ける
アジャイル開発は海外でかなり広く普及してきましたが、ウォーターフォール型が主流になっている日本、特にエンタープライズ領域においてアジャイルの普及がまだまだ模索中です。その代わりに、折衷案の「ハイブリッド型開発」(1つのプロジェクトの中でウォーターフォールとアジャイルを組み合わせる開発)を採用している企業が多いようです。
ハイブリッド型開発はウォーターフォール型からアジャイル開発への転換期における一つの方法ではありますが、目指すべきアジャイル開発の姿とは言えません。
アジャイルは開発プロセスの転換だけではなく、「ウォーターフォール」から仕事に対する考え方とワークスタイルの改革でもあります。開発者はアジャイル開発を通じて、プロセスや仕様への過剰な遵守と分析をする従来のワークスタイルから、変化に応じてシステムや製品の価値創造にフォーカスしていく新しいワークスタイルへとシフトすることが理想的です。
現状に合わせてプロセスの一部をウォーターフォールのままとすることで、アジャイル開発を導入しやすくなるという考え方には合理性がある一方、大きな落とし穴も存在しています。その手法にずっと依存すると結局は既存の規則や思考習慣から脱出できず、アジャイルの本質「仕事に対する考え方とワークスタイルの改革」を失ってしまう恐れがあります。
アジャイルを定着させるには、今のアジャイルスキルでチャレンジできそうなプロジェクトを選定し、「現行規則踏襲」をやめ、思い切ってアジャイル手法で進めることが有効かもしれません。チーム全員を共同の取り組みに参加させることで、新しい目標を達成するための最良の方法がきっと見つかります。そのような実践から得られた知見とノウハウをさらに別のプロジェクトで実践していくことで、徐々に規模の拡大が実現可能になります。
4.まとめ
上述の注意ポイントは日本だけではなく、海外でもよく見られる共通課題となっています。過剰な苦手意識を持たずに、まず変化に応じてチャレンジすることが成功に向かう第一歩ではないでしょうか。
シーエーシーはこれまで蓄積してきたエンタープライズシステム開発ノウハウと柔軟なアジャイル支援体制により、お客様のデジタルトランスフォーメーション戦略の実現を共に取り組んでいます。
アジャイル開発の導入をご検討中の方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。
【CACエンタープライズアジャイル支援サービス】
参考:
https://medium.com/awesome-agile/top-10-mistakes-organizations-make-to-become-agile-3a83536e3285
https://www.cac.co.jp/case/olive.html