DX化におけるビッグデータの国内活用例(行政・自治体篇)

昨今、企業や行政のDX推進の一環として、ビッグデータを利用した新しいビジネスアイデアやサービスが多く創出され、経営や社会の課題の解決手段として利用されつつあります。また、国全体でビッグデータを起点とした関連投資・資本ストックやそれに付随した生産性の向上を通じた経済成長も期待されています。今回は、行政によるビックデータ活用の取り組みをご紹介したいと思います。

1.ビッグデータの分類

ビッグデータは多くの種類と処理方法がありますが、総務省の平成29年版情報通信白書では、個人・企業・政府の3つの主体が生成しうるデータに着目し、ビッグデータを以下の4つに分類しています。

1)政府:国や地方公共団体が提供する「オープンデータ」
ビッグデータとして先行している分野で、政府や地方公共団体などが保有する公共情報について、データとしてオープン化を強力に推進することとされているものである。

2)企業:暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化したデータ(「知のデジタル化」と呼ぶ)
農業やインフラ管理からビジネス等に至る産業や企業が持ちうるパーソナルデータ以外のデータとして捉えられる。今後、多様な分野・産業、あるいは身の回りに存在する人間のあらゆる知に迫る、様々なノウハウや蓄積がデジタル化されることが想定される。

3)企業:M2M(Machine to Machine)から吐き出されるストリーミングデータ(「M2Mデータ」と呼ぶ)
工場等の生産現場におけるIoT機器から収集されるデータや橋梁に設置されたIoT機器からのセンシングデータ(歪み、振動、通行車両の形式・重量など)等が挙げられる。
この「M2Mデータ」と「知のデジタル化」の2つについては、情報の生成及び利用の観点から、主として産業データとして位置付けられる。今後、特にこうした産業データに係る領域においては、我が国の競争力を発揮でき、産業力の強化が期待されるところである。

4)個人:個人の属性に係る「パーソナルデータ」
個人の属性情報、移動・行動・購買履歴、ウェアラブル機器から収集された個人情報を含む。また、特定の個人を識別できないように加工された人流情報、商品情報等も含まれる。

上記のような政府、企業、個人間のデータ流通・利活用の促進によって、イノベーションを加速させ、経済成長への貢献を高めていくことが望まれています。

2.政府のビッグデータ活用例:RESAS(リサース)

RESAS は地域経済分析システム(Regional Economy Society Analyzing System)の略語で、産業構造や人口動態、人の流れなど地域経済に関する、様々な官民のビッグデータを集約し可視化するシステムです。地方創生の様々な支援を目的にして、経済産業省および内閣官房が提供しています。

RESASはデータを以下の9種類に分類しており、目的によってそれぞれのデータを組み合わせて利用することができます。
① 人口マップ
② 地域経済循環マップ
③ 産業構造マップ
④ 企業活動マップ
⑤ 消費マップ
⑥ 観光マップ
⑦ まちづくりマップ
⑧ 医療・福祉マップ
⑨ 地方財政マップ

RESASは誰でも無料で使え、サイトに解説動画やデータ分析のE-learningもあり、すでに自治体、企業、市民など多方に利用されています。

3.RESAS活用事例:北海道ニセコ町

ウィンタースポーツで世界中から注目されている観光地である北海道ニセコ町は、RESASを活用した取り組みを行いました。

<取り組みの背景>
ニセコはウィンタースポーツを中心に国内有数の国際観光都市で、国内外からも多くの観光客が訪問し、ホテル建設等の観光投資も増加しています。こうした観光分野の動向が町内にどの程度恩恵を与えているのか、現状分析や課題抽出を行い、町内の稼ぎ向上を目的とした政策検討を行いました。

<データ分析>
データ分析はRESASの地域経済循環マップや観光マップ、産業構造マップなどを利用して、地域の経済循環、町内産業の移輸出入収支、町民所得、町の財政、町の農産物の特徴、道の駅の検索数、道内の冬季における観光スポットの集客状況、外国人宿泊者数、観光客の周遊状況、飲食店の立地動向、働き手の確保状況など11の分野で行いました。

<分析結果>
分析によって、ニセコは「観光都市として外部資本を取り込んでいるものの、町外への⽀出が超過している。また町民所得や町の財政力指数も周辺市町と比較して相対的に低く、観光客や投資の増加が地域の稼ぎに十分繋がっていない」といった結果になり、観光産業の恩恵を十分に活かしきれず、町自体の発展に寄与していないという課題が浮かび上がりました。

<政策提案>
上記データ分析によって発見した課題に対して、ニセコの農作物の多種多様性や道の駅の活用、飲食店の増加、公共交通の運行改善など具体的な改善策が提案されました。

このように、ニセコ町はデータを活用した現状分析から、今後の発展の取り組みを行うための足掛かりとして町内の改善を進めています。

参考サイト:
https://www.hkd.meti.go.jp/hoksr/20170201/index.htm

4.まとめ

RESASとニセコの取り組みのような、国が中心となって地方創生を目的としたオープンデータの活用は、地域と産業の活性化に繋がる良い試みだと思います。コロナ収束に伴い各地域の海外とのビジネス往来が再び活発化する中、地方の経済復興や競争力向上を一層図るため、行政オープンデータの利活用は一つのカギかもしれません。

現在スマホなどデバイスの普及やIoTなどのテクノロジーの活用によって、大量のデータがより多くの形式で収集できるようになっています。今後は今まで眠っていたビッグデータをどのように発掘・活用するか、産官学連携して、試行錯誤しながらより活発な研究、実験、実践が期待されます。

皆さんもご興味があれば、RESASを利用して地域経済の動向をさまざまな角度から分析してみては如何でしょうか。今まで気付かなかった事情や傾向を発見し、各地域の発展方向や自社ビジネスの市場規模など推定できるかもしれません。

おすすめ記事